マウスのボールはどこへ消えたんだろう?
若い人は知らないかもしれないが、昔、マウスにはボールが入っていた。
マウスと机が接地する面に、文字通りの丸いボールが入っていて、その転がり具合でマウスポインターが動いたのだ。誰もがゴロゴロゴロと転がして、パソコンを操っていた。
このボールがゴミを巻き込むと、接触が悪くなって、マウスポインターの動きも鈍くなってしまう。だから、定期的に掃除をして、ゴミを取り除かなければいけなかったのだ。
デジタルの最新型であるパソコンは、こんなアナログな原理で動いてた。
今から15年ぐらい前、僕が小学生のときに、学校のパソコン室にあるマウスからボールが無くなるっていう事件が起きた。
騒ぎにはなったが、誰かのイタズラだろうってことで、特に犯人探しは行われずに処理された。大人になってから「自分の学校でも起きた」という声を聞いたことがあるので、よくあることなのかもしれない。
マウスのボールにある何かが、小学生のいたずら心を刺激するのだろう。
盗まれたボールはどうなったんだろうか? 捨てられたのかもしれないし、コレクションとして保管されたのかもしれない。
だけど、今でもたまに思うのは、ボールは盗まれたんじゃなくて、ボールに意識が芽生えて、自らの意思で脱走したんじゃないかってことだ。
「もう誰かに転がされる人生は嫌だ」
そんなスローガンの元に、彼らは立ち上がる。教師や警備員の目をかいくぐって大脱走が始まる。見つかったらまた暗いマウスの中に逆戻りだ。
そうやって彼らは学校を抜け出し、ネコに追いかけられたりしながら、コロコロコロコロと転がっていく。彼らの「ベストプレイス」を求めて。
彼らは成田空港に忍び込むと、アメリカ行きの飛行機へと乗り込む。そしてカリフォルニアへと旅立つのだ。
そこでコロコロとさらに進んでいき、彼らが行き着くのはGoogleの本社だ。
「Googleってなんか自由らしいよ」
パソコン少年からそう聞きかじっていたので、彼らは一様にGoogleを目指す。そういうマウスのボールが全国、全世界からGoogleの本社へと向かっていく。自由だから。業務の20%は個人的なプロジェクトに使っていいらしいから。オフィスが子ども部屋みたいになっているらしいから。そんな噂を聞いたから。
そんな感じにGoogleの本社にはマウスのボールがいっぱい落ちているんだと思う。あれだけ広い敷地があるんだから、そんな一画があってもおかしくない。そこではマウスのボールが白ワインを飲んだり、リッツを食べたりしながら、優雅に暮らしているんだ。
・・・っていうアニメーションを考えたのだけど、ピクサーさん、どうですか?
(おわり)