「検索」と「拡散」って言葉、ネット以前はどう使われていたんだろう？
日常的にネットをやっていると、よく使う言葉がある。
それが「検索」と「拡散」だ。
「検索」は検索エンジンを使ってウェブページを取り出したいときに使う。Googleで「○○」を検索して意味が書かれているページを見るとか、Amazonで「××」を検索してそのキーワードが入っている本を探す、とか。
「拡散」はSNSでウェブページがシェアされることを意味している。あるウェブサイトについてツイッターでたくさんつぶやかれると「拡散した」と言ったりする。シェアしてほしいときに「拡散希望」と書いてSNSに投稿したりもしますね。
どちらもWebをやっていたら、当たり前に使っている言葉だ。
ふと思うのは、この2つの言葉は昔からあるはずだけれど、ネット以前にこの言葉がどう使われていたのか、想像ができない。どちらも言葉の使われ方としてしっくりしすぎていて、それ以外で使用されている光景が思い浮かばないのだ。
そこで国会図書館の「NDL Search」で調べてみよう。書籍タイトルを検索（！）してみれば、昔はどういう使われ方がしていたかがわかるだろう。本当は新聞記事なんかが良いのだけれど、ああいうのの全文検索（！）は法人会員じゃないと高価だったりする。
「検索」で検索してみるとこんな結果が出た。
『植物自然分科検索表』アサ・グレー、1888
『醗酵菌類検索便覧』斎藤賢道、1934
『薬品検索表』杉井善雄、1938
『経穴の電気検索による灸治新法』本谷一朗、1943
『日本鳥類検索』清棲幸保、1948
『昆虫の検索』素木得一、1956
どうやら図鑑などに使われていたようですね。「紙のインターネット」とでも言うようなものに「検索」っていうタイトルが使われています。
1970年代に入るともう「情報検索」って言葉が使われだして、これは図書館の本をコンピュータを使って検索しようというもので、今の使われ方とほとんど同じだ。
要するに昔から大量にあるものから一部を抜き出す行為を「検索」って呼んでいたわけだ。
でも、「経穴の電気検索」って何だろう。何だか穏やかじゃない言葉だ。調べてみたけれどさっぱりわかりませんでした。
次に、「拡散」はどうだろう。
『工業数学 : 熱伝導及拡散』伊藤徳之助、1937
『微量拡散分析及び誤差論』E.J.コーンウェイ、1952
『煙の拡散』F.Pasquill、1968
『トンネル坑口部排気ガス拡散に関する調査研究報告書』高速道路調査会、1972
『燃料油の燃焼物の大気中への拡散について』海外技術資料研究所専門委員会、1974
『高速道路における自動車排出ガス拡散に関する研究』自動車排出ガス拡散研究会、1974
『海洋粒状物の移流拡散に関する基礎研究』川合英夫、1978
『農村血族の継承と拡散の動態』農村開発企画委員会、1982
「拡散」は科学用語として使われいてる。「熱拡散」や「拡散因子」とか。
それ以外になると何だかネガティブな使われ方だ。悪いものが広がる、みたいなイメージで使われている。「排気ガスの拡散希望」なんてとても言えないですよね。
でも、こういう使われ方は1970年代が主なようだ。この頃って大気汚染が問題視されていたので、誰かが「拡散」って表現を使って、それが広まったんでしょうね。
こうやって見てみると「拡散」って言葉がこんなにカジュアルに使われているのは、人類史始まって以来かもしれない。
それにしても、「農村血族の継承と拡散」ってすごい言葉ですね。ちょっと現代にはない言語感覚です。
国会図書館は19世紀以降の本しか置いてないので、それ以前はわからない。
図鑑が誕生する以前の「検索」って何だったんだろう？ 科学が誕生する前の「拡散」って？ 原始時代はどんな風に使われていたんだろう。
「おい、マンモスがどこにいるか検索してくれ」
「この投石機で石を拡散させれば、一気に撃退できるぞ」
力が自慢の兄と、ひ弱だけど知性がある弟の凸凹コンビが力を合わせてマンモスを狩る。
そのうち、2人はおんなじ女性を好きになる。兄は不器用だけど積極性で女性にアプローチする。弟はサプライズや決めフレーズなどを駆使して、女性の心を捉えようとする。2人はそれが原因となってケンカをし、仲違いをしてしまう。
そうこうしているうちに2人が住む村に、近隣の村5つを壊滅させたという大マンモス「おろち」が襲ってきて・・・2人は恋の停戦協定を結んで、村を救うために立ち上がるのだ。
戦いが終わったあと、実は2人が恋していた女性は、生き別れた妹だとわかる。こうして3人は仲良く暮らしましたとさ。
そういう風に使っていたかもしれない。
（おわり）
